華糀の可能性は、無限だと思っています。
私たち島津麹店が、百年以上かけて受け継いできた糀。その使い道を「味噌や甘酒のため」とだけ考えていたら、きっとここまで来られなかった。糀は、もっと自由なものです。料理の下ごしらえにも、飲みものにも、暮らしのいろいろな場面に、静かに寄り添ってくれます。
今日は、そのなかでも特別に気に入っている合わせ方をひとつ、ご紹介します。お茶です。
ひと晩、寝かせるだけ
つくり方は、驚くほど簡単です。
水出しした緑茶に、華糀を混ぜる。あとは冷蔵庫で、ひと晩、静かに寝かせる。ただ、それだけ。火を使うわけでも、何かを足すわけでもありません。手をかけないことが、いちばんの手のかけ方になる。そんな一杯です。
寝かせているあいだ、糀はゆっくりと働いています。目には見えないけれど、たしかに動いている。緑茶のなかの成分を、糀が少しずつ分解していく。はじめは濃かった緑色が、時間とともにすこしずつうすくなっていきます。
翌朝、グラスに注いでみてください。淡い若草色の、澄んだ一杯がそこにあります。前の晩とは、まるで別のものになっている。その変化を見るのが、私はいつも楽しみなのです。
砂糖を、ひとつまみも使わずに
ひとくち含むと、驚くほどなめらかな甘さがひろがります。
ここが、いちばんお伝えしたいところです。砂糖は、一切入れていません。それなのに、はっきりと甘い。緑茶のほろ苦さと、糀が生んだ自然な甘み。そのふたつが溶け合って、澄んだ甘さになっています。
なぜ甘くなるのか。糀のなかにいる目に見えない働き手が、緑茶の成分をゆっくりと変えていくからです。砂糖の甘さとは、まったく性質がちがう。後味が重くならず、すっと消えていく。飲んだあとに、心地よい余韻だけが残ります。
甘いものを控えたい方にも、安心して楽しんでいただける一杯だと思います。
待った分だけ、甘くなる
「待った分だけ、甘くなる」
これは華糀が、ずっと変わらず持っている性質です。
急がない。手をかけすぎない。ただ、時間にゆだねる。そうすると、糀のほうから、いちばん美味しいところへ連れていってくれます。こちらが何かを足すのではなく、糀が持っている力を、時間がそっと引き出してくれる。
私たちが大切にしている「時を売る」という考え方も、ここに通じています。すぐに結果を求めるのではなく、待つこと。その待つ時間そのものに、価値がある。糀は、それを静かに教えてくれる存在です。
慌ただしい毎日のなかで、ひと晩待つ。たったそれだけのことが、なんだか贅沢に思えてくる。冷蔵庫のなかで糀が働いているあいだ、私たちはただ眠っていればいい。朝、目を覚ますと、一杯ができあがっている。待つことが、こんなに豊かなことだったのかと、あらためて気づかされます。
まだ知らない、たくさんの合わせ方
今日ご紹介したのは、お茶との組み合わせでした。けれど、合わせ方はきっと、まだまだたくさんあるはずです。
紅茶ではどうだろう。ほうじ茶なら。果物のジュースと合わせたら、どんな味になるだろう。考えはじめると、きりがありません。そして正直に言えば、そのすべてを、まだ私たち自身も知らないのです。
百年以上、糀と向き合ってきた私たちでさえ、華糀のことを知り尽くしてはいない。むしろ、毎日のように新しい発見があります。だからこそ、面白い。糀には、まだ見ぬ可能性が、たっぷりと眠っているのです。
そして、その発見は、つくり手だけのものではありません。台所に立つあなたの手のなかで、思いもよらない組み合わせが生まれるかもしれない。私たちが知らない美味しさを、あなたが見つけてくれるかもしれない。そう考えると、わくわくします。
あなたなら、何と合わせますか
今日は、お茶とひと晩。
水出しの緑茶に華糀を混ぜて、静かに寝かせる。たったそれだけで、砂糖を使わない、自然な甘さの一杯ができあがります。待った分だけ、甘くなる。糀は、いつもそうやって、いちばん美味しいところへ連れていってくれます。
さて、次はあなたの番です。
あなたなら、何と合わせてみますか。もし試してみたら、ぜひその味を、私たちにも教えてください。糀の新しい可能性を、一緒に見つけていけたら、こんなに嬉しいことはありません。
静かに、待つ。ととのえる。脈々と。
華糀のある暮らしを、これからも少しずつ、お届けしていきます。
島津麹店 ➅代目