夏になると、決まって聞かれることがあります。「甘酒って、冬の飲みものじゃないの?」と。
たしかに、初詣でいただく温かい一杯の印象は強いものです。けれど、これは私たち糀屋からすると、少しもったいない誤解なのです。
甘酒が「飲む点滴」と呼ばれるようになったのは、もともと夏のことでした。江戸時代、夏の暑さで弱った人たちが、栄養をとるために甘酒を飲んでいたのです。俳句の世界では、甘酒は今でも夏の季語。先人たちは、暑さで参った体に甘酒が効くことを、経験で知っていたのですね。
さて、「飲む点滴」という言葉。誰が言い出したのかは定かではありませんが、これがなかなか的を射ています。
点滴と、よく似ているというお話
栄養剤として使われる点滴には、ブドウ糖やビタミンB群、アミノ酸といった成分が入っています。糀甘酒には、これとよく似た成分が含まれているといわれています。ブドウ糖、ビタミンB群、アミノ酸、オリゴ糖など、点滴とほぼ同じ顔ぶれがそろっている。だから「飲む点滴」。言い得て妙だと思います。
なかでも面白いのが、ブドウ糖の話です。華糀の甘さは、砂糖ではありません。お米のでんぷんを、麹菌がゆっくり分解してつくる、自然な甘さです。でんぷんはブドウ糖に、たんぱく質はアミノ酸にと、栄養が最小の単位まで分解されているため、消化酵素の助けがなくても体に吸収されやすいといわれています。つまり、麹菌が「先に消化を済ませてくれている」ようなものなのです。弱った胃にもやさしい、というのはこういう理屈なのですね。
お掃除をしてくれる、ちょっと変わったタンパク質
もうひとつ、私が個人的にいちばん「糀は働き者だなあ」と感心している成分があります。レジスタントプロテインといいます。
名前は仰々しいのですが、要は「消化されにくいタンパク質」のことです。普通、タンパク質は胃腸で分解されて吸収されますが、これは分解されにくい。では何をするのかというと、食物繊維によく似た働きをして、ゆっくり腸の中を移動しながら、余分な脂質などを巻き込んで体の外へ運んでくれるといわれています。腸の中を、すうっと通り抜けながらお掃除していく。そんなイメージでしょうか。
便をやわらかくする働きもあるとされ、毎日のすっきりに役立つことが期待されています。
美容の面でも研究があるそうで、糀甘酒を毎日続けて飲んだところ、肌の調子に良い変化が見られたという報告もあると聞きます。私は糀屋ですから肌のことは専門の外ですが、菌が黙々と働いた結果が、こういうところにも表れるのかと、つくり手としては嬉しくなる話です。
いつ飲むのが、いいのか
よく聞かれるので、これも書いておきます。おすすめは、朝です。
ブドウ糖やビタミンが多く、すんなりとエネルギーになってくれる。消化と吸収が良いので、起きたばかりの胃にも負担をかけません。寝起きの一杯は、体にすっと染みわたる感じがします。私も仕込みの朝は、まず一杯。これがないと一日が始まらない体に、すっかりなってしまいました。
夏は、よく冷やして。なんなら炭酸で割っても、なかなかいけます。冷やした甘酒は、まさに江戸の人たちの夏の知恵そのものです。
正直に、申し上げます
ここまで良いことばかり並べましたが、ひとつ、正直なことを申し上げます。甘酒は、薬ではありません。飲んだ翌日に何かが劇的に変わる、というものでもないのです。
糀の仕事は、いつも静かです。菌がゆっくり働くように、体に起きることも、ゆっくりです。毎日少しずつ続けた方の暮らしに、いつのまにか馴染んでいく。そういう類いのものだと、私は思っています。
だからこそ、急いで売りたいとは思いません。長くお付き合いくださる方の、暮らしの片隅に置いていただけたら。それがいちばん嬉しいのです。
百十年、お米と菌と、ただ静かに向き合ってきました。その一杯を、よかったら一度、試してみてください。
島津麹店 六代目